どのくらいの数のアユが川に棲めるのか?  

予想外に大きい河川の生産力−  

 

 河川の生産力というのは耳慣れない言葉ですが、ある地域の生物が一定の時間の間に生産される量のことを言います。

ここで考えてみたいのは、日本の河川にどのくらいの数のアユが棲めるのか?ということす。

ちなみに、ここ10年間に筆者が高知の河川で潜水調査した結果を平均的に見ると、比較的豊漁の年で1m四方に1.5程度、不漁年では0.5程度のアユが棲んでいました。また、全国各地で研究されている放流の基準密度もだいたい1m四方に1尾程度(アユが遡上できない河川です)が目安となっています。

ところが、各河川の古老にお話を聞いた結果から推定すると、30-50年前の高知県の川には少なくとも1m四方に35程度のアユが棲んでいたようです。現在でも、部分的にはこのぐらいの密度でアユが生息していることはあるのですが、川全体を平均しての数値としては驚きを禁じ得ません。わずかここ30年程度でアユが驚くほどのスピードで減少したことになります。

仕事がら全国の河川に調査に出向く機会が多く、3年前からは青森県の赤石川に通っています。最近好調が伝えられている東北地方日本海側の河川であるため、楽しみにはしていたのですが、確かに信じがたいほどのアユの数でした。潜ってみると、1m23-5ものアユがいるのです。仕事の合間に竿を出してみると、1時間あたり10匹はコンスタントに掛かり、時間20匹以上という入れ掛かりもしばしば経験できました。

しかし、考えてみると赤石川のアユの多さというのはどうもおかしいのです。というのも、赤石川は昭和50年頃の河川改修のためにアユの主漁場である中下流部は荒廃が激しく(釣り雑誌に出ているきれいな赤石川の写真は自然の残された上流部です)、筆者らに与えられた課題も「アユの住みやすい河川にするにはどうすればいいのか?」というものであったからです。つまり、川は荒廃しているのにアユが多いという矛盾がどうも納得できなかったのです。

私たちは、川が荒れたこと、水が少なくなったこと、水が汚くなったこと等をアユの減少の理由として考えてきましたが、ひょっとしたら大きな勘違いをしているのかもしれません。もちろん、このような人為的な影響がアユを減らしたことを否定はしませんし、現実にその影響はあったというのが素直な考え方だとは思うのです。

しかし、少なくとも見た目にはまだ自然が多い高知の川にアユが少なくて、荒れた赤石川にアユが多いという事実は、「川の持つ潜在的な生産力はいまだに相当に高い」ということを暗示しているように思えるのです。

前置きが長くなりましたが、本題である「河川にどのくらいの数のアユが棲めるのか?」ということを考えてみましょう。

ここでは、高知県を代表する河川として、四万十川を取り上げ、「現状でも無理なく棲めるアユの数」を試算します。この試算に必要なものは、「四万十川のアユ漁場の面積」と「平均的なアユの密度」の2つです。

アユ漁場の面積については高知大におられた岡村収先生が調査し、約180m2あることが分かっています。密度は昭和51年の漁獲量から推算すると、3尾/m2となります。この値は赤石川の密度とほぼ同じなので、現実的な数値と考えても差し支えないと思います。数字が続きますが、少し我慢して下さい。


10,800,000m2)×3(尾/m2)=32,400,000(尾)となります。これが、四万十川に今でも生息可能なアユの数です。

平均体重を60g18-20cm)とすると、

32,400,000(尾)×60g)=1,944(t)となり、漁獲可能量(産卵する親を充分残したうえで漁獲できる量)を60%とすると、

1,944(t)×0.61,166(t)となります。アユの値段はkgあたり5,000円程度ですから、漁獲金額は、

1,166(t)×5,000(円)=583千万円 となります

 

これだけでも驚くべき数字だとは思いますが、アユが多ければ全国から人が集まり、地元に落とすお金はもっと多くなります。さらに、天然の生物資源ですから、基本的に元手をかけずに毎年このような恵みを地域にもたらしてくれることになります。

天然のアユを守るということには、このように金に換算しても(少し嫌みなやりかたですが)相当な意義が見えてきます。なにより、アユがたくさん釣れる川があるということは、それだけで私たち釣り人をワクワクさせてくれます。これこそが何ものにも代え難いものかもしれません。

 



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