アユは生まれた川に帰るのか?  

サケの仲間では海洋生活を送った後に生まれた川に帰って来ることは、良く知られており、これを「母川回帰」と呼んでいます。それでは、アユにもサケのような母川回帰本能があるのでしょうか?結論を先に言いますと、「ノー」ということになります。というのも、サケが母川に帰ることができるのは、稚魚の頃に母川の臭いを記憶していて、それを頼りに自分が帰るべき河川を選ぶことができるからなのですが、このように母川の臭いを記憶するためには、ある程度の期間河川で生活することと、臭いを記憶することのできる器官の発達が必要になります。


 ところが、アユの場合は、ふ化した直後に海に下るので、母川の臭いを記憶するには臭覚や脳の発達が不十分な状態で、かつ記憶のために必要な時間もありません。           したがって「アユはサケのように能動的に母川回帰をすることはない」というのが、定説です。

孵化直後のアユ

  この考え方は、科学的にも正しいと思います。実際、小河川しかない佐渡島にある年突然大量のアユが押し寄せることがあるそうです。

しかし、本当でしょうか?

高知県中央部の手結海岸で調査を何年か続け、アユの稚魚を大量に採集しました。このアユはどこで生まれたのか?手結海岸には夜須川という小河川が流れ込んでいますが、ここにはアユがほとんどいません(地元ですので良く知っています)。となると、おそらく10kmほど離れた物部川で生まれた魚だろうと想像できます。多分、海に出た後に潮流に運ばれ、この海岸にたどり着いたのでしょう。

このようなアユは冬の間中採集できますが、春になると次第に姿を消します。当然川にのぼったのでしょうが、最も近い夜須川にはやっぱりアユはほとんどいないのです。このことはアユが遡上する際には、単に淡水を目指しているのではなく、何らかの手段で川を選んでいることを暗示しているように思えるのです。でも、このことからアユが母川回帰を行っているという結論は導くことができません(物部川に帰ったという確証はないのですから)。

 

 

 アユの母川回帰を考える上でもう少し科学的な3つ情報があります。

 

@  日本の海産アユ(琵琶湖アユとリュウキュウアユを除きます)には遺伝的な違いがほとんどない。     (関ほか, 1988)

A   屋久島などでは島内の河川集団間に遺伝的な分化が認められる。(澤志ほか, 1993)

B   アユはふ化後1週間ぐらいすると沿岸の底層に集中的に分布する。(Takahashi et al., 1998)

@は河川間で遺伝的な交流があることを意味しており、特には母川回帰をしていないことを示唆します。これに反して、Aは小さな島でも河川間の行き来がほとんど無いことを意味し、これは母川回帰していることの証拠と言えます。Bは私が四万十川で得た成果なのですが、底層に分布することには潮流や河川流に運ばれにくくして、生まれた川の近くに留まるという意義があると考えています。実際、四万十川の河口内には「海に出ないアユ」がたくさん棲んでいて、これらは当然四万十川(母川)に遡上すると判断されます。

 結局のところ、アユが母川回帰するかどうかは、海岸の地形や生まれた時々の河川流量や潮流に左右されるようです。安芸川、伊尾木川、安田川、奈半利川などは比較的近い距離にあり、海岸も開放的な地形をしています。このような場所では、生まれた川以外の川に紛れ込む機会が多く、母川回帰する割合は相対に低いでしょうし、新荘川や松田川など閉鎖的な湾に流れ込んでいるところでは、他の河川に紛れ込む機会は少なく、高い母川回帰率となっていると考えられます。

 このように、現段階ではアユが母川回帰するかどうか決定的な結論をことは出すことはできません。しかし、アユの海での分布が波打ち際のようなごく沿岸に限られていること、四万十川のように河口を出ないアユもいること −これらの行動は結果的に母川回帰につながりやすい− を考えれば、アユの母川回帰率はかなり高いと考えても良いのではないでしょうか。

こう考えると、例えば漁業組合が自分の河川のアユ資源(天然遡上)を保全したいとするならば、自分の河川の中で何とかしなければならないということになります。「ほっとけば海から自然にのぼってくる」では立ちゆかない時代になっています。

 



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